« フロートバランの製作 その3 | トップページ | 進行波と反射波の関係 - 備忘録 »

2022年2月 6日 (日)

フロートバランの製作 その4

これで4つ目、同軸ケーブルを使ったソーターバランを作った。ここでは月刊FBの記事を参照した。

ここまでで得られた結論から先に書くと、50MHzのバランは単にコイルや同軸ケーブルをトロイダルコアに巻いただけでは損失が大きく、実用に耐えるにはインピーダンスマッチングが必要ということ。なので、4つ目ではインピーダンスマッチングを行うことで完成となった。

トロイダルコアと同軸ケーブルは千石電商からネット調達した。千石電商は秋葉原系の他のネット通販とは一味違ってマニアックな品揃えになっているようだ。
Partslist

Img06269_small

トロイダルコアに同軸ケーブル固定用の結束バンドを取り付ける。
Img06273_small

同軸ケーブルは6回巻いてからコアの真ん中を通して向かい側に回して更に6回巻く。合計12回巻き。
Img06274_small

両端の被覆をカット。
Img06276_small

コアをボックス内にセットする。
Img06277_small

アンテナアナライザーAA-1500に直接接続をしてSWRを測定する。変換コネクターを幾つか使ってこんな感じで測定した。
Img06280_small

赤線が今回製作したバラン。紫線がBL-5、緑線がFT-50-43でのコイル5回巻き。50MHz付近ではSWRが上昇している。 Swrbl5ft5043
グラフ1

ここで、なんでこうなっているのか考える。

そもそもSWRは反射係数 Γ = |(ZL-ZO)/(ZL+ZO)| で得られ、SWR = (1+Γ)/(1-Γ) で得られる。 
ZL:負荷インピーダンス、ZO:線路の特性インピーダンス

つまり、周波数の上昇にともなってSWRが上昇するということは負荷インピーダンスつまりバランの入力インピーダンスが変化する(線路の特性インピーダンスとバランの入力インピーダンスとの差分が大きくなる)ということと解釈できる。

そこで50MHzワイヤーダイポールにバランを接続してSWR値を比較してみた。BL-5ではSWR=1.01(赤線)、同軸バランではSWR=1.50(紫線)となった。上記の50MHzでの同軸バランの入力インピーダンス変化がこの差になって表れているんだろうと思う。
Bl5swr
グラフ2

実際AA-1500のスミスチャートで比較をしてみると一目瞭然となっている。BL-5はワイヤーダイポールの共振周波数である48.8MHzあたりでR=1.0中心点(リアクタンス=0のライン)にプロットされる(赤線)。
Bl5smith
グラフ3

一方同軸バランは48.6MHzにてSWR=1.51となり(紫線)、その際Z=64.89-j18.38となっていて、|Z|=67.44となっている。つまり、入力抵抗値も大きくなるとともに、容量成分のリアクタンスが発生していて、R=1.0の中心点から外れている。
Bl5smith2
グラフ4

改めてグラフ1を見ると14MHzあたりからBL-5とのSWR差が生じている。つまり、14MHz以下であればダイポールアンテナ接続時にBL-5と同等の性能を出すことができるだろうが、周波数がその辺りを超えるとインピーダンスマッチングが必要になるということを示唆しているのだろう。インピーダンスマッチング回路はどうなるのか、このあたりの計算をMr.Smithで行ってみた。このアプリは超スグレモノで、スミスチャートど素人の私でもインピーダンスマッチング回路設計ができてしまうのだ。スタートポイント(Marker 0)はアンテナアナライザーが示したZ=64.89-j18.38。そこからキャパシタをパラレル接続してR=1の等レジスタンス線のMarker 1に移動する。その後インダクターをシリアル接続してR=1の中心点、Marker 2に移動する。
Photo_20220206103201

上記2ステップの移動をまとめると、50MHzでインピーダンスを50Ω(R=1.0)にマッチングするには以下の回路が必要との結果になった。

Photo_20220206105101

キャパシタは手持ちの22pFセラミックコンデンサーを使った。コイルは計算の結果、5mm径で4ターンのコイルで108nHとなることが分かったので自作した。3D-2Vのケーブル被覆が丁度良い寸法だったので、そこに0.35mmのUEW線を4回巻いた。
Img06285_small

このコンデンサーとコイルをバランの箱内に実装した。
Img06288_hdr_small

アンテナアナライザーに直結した状態でのSWR変化は以下の通り。赤線がインピーダンスマッチング回路付きで、紫線が同回路なし。50MHz付近ではSWRが下がっている。つまり線路の特性インピーダンスとバランの入力インピーダンスの差分が小さくなったというわけだ。
Imp
グラフ5

インピーダンス変換回路付きでダイポールアンテナに接続してみた。SWR=1.16まで下がった(赤線)。緑線は同回路なしのSWR。結構改善がみられる。
Imp_20220206141601

改善の様子をSmithチャートで見てみると、ほぼ狙い通りになっていることがわかる。48.5MHzではチャートの中心の一歩手前まで移動している。
Smith
グラフ7

少なくともR=1.0の等レジスタンス線上に軌跡が来ているので、キャパシタは22pFで正解だったことになる。インダクタをもうちょっと増やすと容量性リアクタンスをゼロにもっていけそうだ。そこでコイルを4回巻きから5回巻きに1ターン増やしてみた。

結果は大正解で、Z = 49.99 + J0.63 まで追い込むことができた。
5smith
グラフ8

結果としてSWR=1.01、RL=44.01と理想的なところになった。
5swr
グラフ9

このバランに25Ω抵抗をシリアルに接続し50Ωとし、中間点をGNDにして両端の電圧をオシロスコープで測定することでバランス度合を確認する。アンテナアナライザをSWRメータモードにして48.6MHzのSWRを測定した。こうすることでバランに48.6MHzの信号が送り込まれる。
Img06289_small

真ん中の紫色の線がA+B。ほぼ平坦で平衡度が得られていることが確認できた。
Imp486mhz

結果:
以下のCLにてインピーダンスマッチング回路をバラン入力点に構成し50MHzでのバラン入力インピーダンスを50Ωすることで低損失のソーターバランとして機能する。
C=22pF
L=5mm径で5ターンのコイル。多分108nHあたり。

少なくとも50MHz辺りではバランの入力インピーダンスが同軸ケーブルの特性インピーダンスである50Ωから外れて、それにより反射係数が上昇しSWRが劣化していると判断できた。50MHz辺りでのバランの入力インピーダンスが50Ωになるようにインピーダンスマッチング回路を挿入すると、50MHzでのSWRは劇的に改善する。つまり反射係数が小さくなる。

今回追加実装したインピーダンス変換回路をそれなりの出力に耐えられるように実装すれば、この同軸ケーブルを使ったソーターバランは50MHzでも使えそうだ。とにかく勉強になった。

« フロートバランの製作 その3 | トップページ | 進行波と反射波の関係 - 備忘録 »

無線と実験」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« フロートバランの製作 その3 | トップページ | 進行波と反射波の関係 - 備忘録 »